03-20
祐天寺で天津丼 『三久飯店』
2026-03-20
HaiPress

イラスト:なかむらるみ
おしゃれな若者が集まる、古き良き町中華。昔懐かしい天津丼を食らう

「三久飯店」がある昭和通りの東端と駒沢通りが交わる祐天寺二丁目交差点に立つ看板。
東横線の祐天寺は、駒沢通りに門を開けた明顕山祐天寺の最寄り駅として昭和2年(1927年)の東横線(渋谷線)開通とともに置かれた駅だが、その頃からの狭い通りにいくつかの商店街が続いていて、散歩心をくすぐる。駒沢通りの方から入ってきた東急バスが、駅横の地面を掘りこんだようなガードをガクンとくぐって向こう側に通りぬけていくのも昔ながらの風景だが、駅の北寄りの線路端に見える、庭先に灯籠を並べた石屋のような植木屋のような古屋敷は僕が沿線の高校に通っていた当時から東横線の車窓越しに眺めた(いまは高架線になっているが、その時代はすぐ脇に踏切があったはず)記憶がある。ちなみに、高坂商店というこの造園業の家はHPによると、大正初めの創業というから駅より先にあったのだ。
東横線の東側の祐天寺1丁目の路地には、庭に聳(そび)えるクスノキの巨木の向こうに木造の古めかしい校舎が見える平塚幼稚園というのがあり、駒沢通りまで出ると中目黒の方向に祐天寺がある。ここはもう何度も訪ねているので今回は立ち寄らず、鬼瓦(おにがわら)の屋根付きの庚申塔が立つ祐天寺2丁目の辻のところから北西側に口を開けた昭和通りに入った。昭和通り——とは、たぶん商店街が成立したのが昭和時代ということで、元競馬場の方からくねくねと延びてくるこの道は手元の明治時代の地図に記されているから、道自体はもっと古くからの筋だろう。鎌倉街道の1つかもしれない。
「洋服お直し」なんて看板を出した素朴な町のテーラー、いかにも地元の食通さんが買いにくるような肉屋、女性のバーテンダーが立つ最近の珈琲屋(早くきた僕はここで一杯コーヒーを味わった)……そんな新旧入りまじった素朴な商店街の一角、駅の方へ行く道との曲がり角に「三久飯店」はある。木造2階建ての“正統町中華”といった感じの店だが、白ペンキ塗りの外壁と真っ赤な幌看板のコントラストはどことなくアーリーアメリカンな洋館ムードも漂わせている。

甘酢ダレがたっぷりかかった「天津丼」1100円。
朱赤色の食卓が配置された店内は、ちょっと高いところにテレビが置かれ、厨房側のカウンター(席はない)に割と大型の招き猫、そして少し他の町中華と違っているのは、ファッションブランドのロゴや「スタイリスト私物」などとシャレで記したウチワなんかが壁に飾られているあたり。場所柄もあるのだろうが、町中華好きのファッション関係者がよく訪れるらしい。また、名前は明かせないけれど、某アイドルグループがロケで使ったことから、情報を聞きつけたファンの女の子たちもやってくるようになったという。

お店の人気商品「エビチャーハン」(1200円)。
「推しのコと同じものを食べて帰っていくんですよ」と、店の人が教えてくれた。
そのメニューが何かはわからないが、僕は「天津丼」を目当てにしてきた。ネット画像で眺めたこの店の天津丼が気に入ったのだが、玉子の上に茶色っぽい甘酢味と思しきタレがまぶされたオーソドックスなタイプだ。
日本の天津丼が中国の天津に存在しないということはもう知れわたっているけれど、天津は軍国時代から日本人が多かった地域だから、焼餃子なんかと同じく戦後に大陸から引き揚げてきた人たちが始めた中華料理屋が適当に名づけたところから広まったメニューなのではないかな……と僕は推理する。

「野菜炒め」(1000円)。定食(1150円)も用意。
丼ではなく、天津飯としているお店もあるけれど、ここは品書きこそ天津丼なのに、店の人たちはテンシンハンと呼んでいるのがなんだがおかしい。ちなみに、店の人というのは僕らと話のやりとりをしている40代くらいの3代目店主尾林正浩さんと彼の母、さらに彼女の兄にあたるという人が厨房で黙々と調理に励んでいる。純粋家族経営の町中華、店は正浩さんの祖父母が昭和42年(1967年)の暮れにここで開業した。
天津丼の他に、1番人気という芝エビがたっぷり入ったエビチャーハン、野菜炒めなどをもらったが、どれも“通って平常的に食べたくなる”ような良い味だ。
ところで、三久飯店の店名……よくあるサンキューの当て字か? と思ったら、創業した初代の名前が佐藤二三(にぞう)、そのときの大家さんが「久(ひさし)」という名前だったので、三と久を重ねたのだという。
◆◆◆
今回訪れたお店

三久飯店
住所東京都目黒区祐天寺2-17-11
電話03-3711-5946
営業時間11:30~15:00、17:00~21:00
定休日月・火曜(月曜が祝日の場合は営業)
※掲載したお店や施設の臨時休業および年末年始・ゴールデンウイーク・お盆休みは営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2026年3月20日時点での情報です。
※料金は原則的に税込み金額表示です。
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PROFILE
泉麻人コラムニスト

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『「冗談画報」という楽しい番組があった』(三賢社) 『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
なかむらるみイラストレーター

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に、月刊たくさんのふしぎ『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。泉さんの本では『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京 のらりくらりバス遊覧』『続・大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などでイラストを担当している。
https://www.tsumamu.net/
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