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第五福竜丸の左舷に核廃絶を願う大きな光 被爆70年で企画展 画家の山内若菜さん、悲劇と再生描く
2024-11-01 HaiPress
今年のノーベル平和賞は日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に授与されるが、その結成のきっかけになったのが「ビキニ事件」だ。米国が南太平洋・ビキニ環礁で行った水爆実験でマグロ漁船「第五福竜丸」が被ばくして70年。船は夢の島公園(江東区)の都立展示館で今も悲劇を語り継ぐ。館内では現在、核なき未来へ進む希望を描いた大作が紹介されている。
第五福竜丸の左舷船体に展示された作品「ふたつの太陽」。山内若菜さんは左手前をビキニ水爆、右奥は広島原爆をイメージして描いた=いずれも江東区の都立第五福竜丸展示館で
ビキニ事件米ソ冷戦と核開発競争の中、1954年3月1日、米国はマーシャル諸島ビキニ環礁で水爆「ブラボー」の実験を実施。静岡県焼津港所属の第五福竜丸は周辺海域で多量の放射性物質を浴び、乗組員23人の被ばくとマグロなどの汚染が判明。約半年後に無線長が死亡した。この事件で原水爆禁止運動が広がり、56年に被団協が結成された。放射能が減った第五福竜丸は東京水産大(現東京海洋大)の航海練習船となり、廃船後はごみ処分場「夢の島」に放置されたが、市民の保存運動から76年に都が展示した。
◆絵のテーマは「いのちの賛歌」
第五福竜丸の左舷船体に展示された作品「ふたつの太陽」。右手前が広島原爆、左奥はビキニ水爆をイメージして描かれた
自身の作品について話す山内若菜さん
船首に第五福竜丸と書かれた木造船は全長約30メートル、高さ15メートル。白いペンキがはげて木肌を見せる左舷に、クラフト用紙と重ねた和紙に描かれた大作「ふたつの太陽」(横15.2メートル、縦3メートル)がつるされていた。
「ひとつは広島原爆、もうひとつはブラボー水爆の炎でもあるものの、『いのちの賛歌』がテーマです」
画家山内若菜さん(47)=神奈川県藤沢市=は両手を広げ、左右対称に大きく輝きを放つ陽(ひ)の光を指した。それらに向けて、矢を放つように広島の被爆樹が立ち、巨大マグロのように姿を変えた船がビキニ環礁を進む。
◆福島第1原発事故をきっかけに筆を執る
作品に描かれた「プランクトン」
絵に近づくと、原爆で汚染された土壌にクマムシや菌類、サンゴ片の「死の灰」が降った海面にはプランクトン類がうごめき、生命の躍動を感じさせる。
「小さな生きものたちの『命の灯(ともしび)』は被ばくからの再生への証し。ふたつの太陽は今、命を優先した世界を創る『希望の光』であり、核廃絶へとみなぎる私たち市民のエネルギーの塊もイメージしています」
山内さんは2011年の東京電力福島第1原発事故後、福島県内の牧場に通って動物たちの死と生を見つめた。ビキニ事件では1000隻近い船から魚の汚染が判明したことに怒りの筆を執った。館内ではそんな大小の作品75点が鑑賞できる。
◆高校生にも核の悲劇を伝える
法政大国際高の生徒らに作品を説明する山内若菜さん(左端)
10月中旬、法政大国際高校(横浜市)の生徒13人が平和学習の一環で桑野啓(あきら)教諭と訪れた。3年生の加藤遼華(はるか)さんは「被ばく船と絵が融合して過去に触れ、未来につながる空間となり、核実験や核兵器がどれだけ危険かを再認識した。被団協のノーベル平和賞受賞は民衆の行動の輪が世界を動かしうる大きな力になると感銘を受けた」と感想を述べた。
同館学芸員の市田真理(いちだ・まり)さん(57)は「海外からの来館者も増えており、核実験の被害を伝える公共の施設が東京にある重要さを改めて感じている」と語った。
◇◇
第五福竜丸展示館には「ふたつの太陽」をはじめ山内若菜さんの作品が多数展示されている
山内若菜展は来年1月19日まで、午前9時半~午後4時(月曜休館、祝日の場合は開館し翌日休館)。入場無料。問い合わせは同館=電03(3521)8494=へ。
◆文・野呂法夫/写真・木戸佑
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